小さな命

2001年8月17日
 一年前の今日、生まれたての小さな命が天国へ昇っていきました。
 彼女に逢ったのは、一年前の昨日。まだ日差しの強い夕方でした。早めに帰宅した父が、慌てた様子で母に何か言っています。
「家の前に、子猫が3匹捨てられてる」
 おっしー、おかじとチャットしてた私は、身を固くして父の言葉に耳を傾けます。案の定、大人達は保健所に連絡し、始末して貰うという。私は、1%でも彼女たちが助かる可能性があるのならば、見殺しにはしたくないと思いました。
 涙ながらに父を説得すると、一匹だけなら、と許可をくれました。ただし、うちでは飼えないので、里親を見つけることを条件に。里親は、あっさり見つかりました。
 里親になってくれたおかじが、明後日にはこっちへ来てくれる、と言うので、それまでこの小さな命を繋ぎ止めなければなりません。
 外の箱の中には、まだへその緒が取れていない目も見えない子猫。黒と白と茶色。中でも、茶色の彼女が一番元気そうだったので、残りの二匹に「ごめんね」を言い、茶色の彼女を抱いて、家へ。
チャットを中断し、おっしーとおかじに謝りつつ、母が用意してくれた籠に彼女を入れ、私はペットショップにほ乳瓶とミルクを買いに走りました。
店員のおばちゃんに事情を説明すると
「ああ、余り期待はしない方がいいよ」
 と言われました。
 このとき、私はまだ自分の無知さに気付いてませんでした。
 家に帰り、早速説明書に書いて有るとおりにミルクを作ります。ああ、ちゃんと学校でミルクの作りかた勉強しときゃよかった、と後悔しながら女の子なのに「ゆーじん」と名付けた子猫にミルクを。
 飲みません。
にゃーにゃー泣き叫んで、ちっとも飲んでくれません。今考えれば当たり前かも。

 子を持つ母の気持ちって、こんな感じなのかな、とか思いました。トイレ行くにもゆーじんが心配で、風呂もおちおち入っていられなくて、寝るときだって、夜泣きに起こされ起こされミルクを与えていました。世のお母さん方の苦労を感じる疾風。でも幸せでした。


 翌朝、昨日より元気になっているようなゆーじんに、ミルクを与えると、飲みました!!しかも動きが活発になってる!嬉々として病院に連れていき、今後どうすりゃいいかを聞きに。しかしここでも
「本当に産まれたばかりだね。これは難しいよ……覚悟はしといて」

 家に帰り、ようやくお医者さんの言ったことが分かりました。ゆーじんの様態が急変。
 濡れガーゼで肛門を突っつき、うんちを出させたところ、血便。一瞬にして私の血の気が引いたことを覚えています。大声で母を呼び、それを見た母は病院に連絡。
「たぶん、中で血管がちょっと切れただけかも知れないから……」
 と言う言葉に、私は絶望を感じました。きっとお医者さんは、もう駄目なことを知って、それでも私を励まそうと、私の努力を無駄にさせまいと、そう言うことを言ってくれたのだ、と覚りました。
 
 それからしばらく。にゃーにゃー鳴いてたゆーじんが急に静かになりました。寝たのかな?と思う前に、私の意識の奥底で、ああ、逝ったな、という冷静な部分が。
 軽くゆーじんを揺らしますが、反応有りません。口を半開きに、ぐったりと身体をクッションに沈めています。母を呼び、「ゆーじんが動かない」と泣きじゃくりながら見せます。母がいくら揺すっても呼んでも、ゆーじんはぴくりとも動きません。

 数年ぶりに、私は母の前で号泣しました。

 ゆーじんの籠を抱き締めたまま、動けなくなった私に、母が優しくそっと、「土に還してあげよう」と言いました。私は首を振って、まだゆーじんと一緒にいる、と籠を離さなかったのを覚えています。
それでも、今は夏。いつ、その身体が腐り始めるか分かりません。それならば、仕方がないと籠を持って母と一緒に近くの公園へ。
 スコップで、出来るだけ深く穴を掘り、ゆーじんに最後の別れを告げそっと手に取りました。死後硬直で、硬くなった片手に収まるほどの小さい身体。目も見えず、へその緒も取れていない、…きっと、母乳を飲むことさえ出来なかった彼女を助けられなかったことを悔やみ、同時に、彼女をこんな目に遭わせた心ない人間を恨みました。本当なら今頃、母猫の元で元気に成長していただろう3匹の子猫。

 彼女たちだけじゃない。
 今、多くのペットや動物たちがゴミ同然に捨てられています。
 もっと良く、命のことを考えて、同じ生き物だと言うことを考えて、人間の勝手で、お願いだからそれらを奪わないで。

 声を大にして言いたいです。

 一年前の今日、小さな命は星になりました。

 心配かけたおっしー、おかじ、透子。
 ごめんね、そしてありがとう。

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